名古屋高等裁判所 昭和29年(ラ)52号 決定
抗告代理人は原決定を取消す。相手方が昭和二十九年九月四日附抗告人に対してなしたる名古屋市中区南大津通四丁目十五番木造平家建家屋(但し建築中の未完成建物)の除却通告処分に基き抗告人に対してなす右物件の除却は本案判決の言渡に至るまでこれを停止する。訴訟費用は第一、二審共相手方の負担とする。旨の決定を求めた。
本件抗告の理由は原決定の如く金銭賠償で抗告人の損害が治癒されるものとすると、その範囲を無制限に拡大すれば民法第三百九十九条に定むる如く如何なる物的損害についても行政事件訴訟特例法第十条第二項は如何なる場合に於ても適用せられる可能性が極めて徴細となり、同項但書に照し考える時妥当を欠くと考える。と謂うにあるけれども、処分の執行により生ずべき償うことのできない損害は必ずしも社会通念に従つた原状回復不能の損害のみを指すものではなく、同じく社会通念上の金銭賠償不能の損害を意味する場合もあるものと解すべく、ただこれを所説のように観念的に無制限に拡大解釈することは正当ではないが今これを本件についてみるに、一件記録によれば本件処分の執行の対象となつた家屋は建坪九坪に過ぎない建物で火災により半焼し未だ修築の未完成建物であることが認められるのでその原状回復は可能であり且つこれが損害は容易に金銭賠償をなしうべく又修築の遅れた期間中の営業中止に依る損害も同様金銭で賠償容易であることが明らかに認められ従つて本件処分の執行によつて償うことのできない損害を生ずるものとは認め難いので右処分の執行停止を求める抗告人の本件申立は爾余の点について判断をなすまでもなく不当として却下すべく、これと同旨に出でたる原決定は相当で本件抗告は理由がないので棄却を免れず、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条第一項によつて主文のように決定する。
(裁判官 北野孝一 伊藤淳吉 小沢三朗)